緑内障で暗点が見え邪魔
合格
2020年10月5日 不安を感じていた大型運転免許・奥行知覚検査(三桿法)立体視を含む視力検査に弾む声で「合格した」と連絡を頂いた。
ユーザー
茨城県 45歳男性 大型車両ドライバー(大型運転免許視力検査用)
主訴
当店サイトで見た緑内障の方の右目に見える暗点を移動し邪魔にならないようにしてほしい。
昨年2019年9月健康診断で緑内障の疑いがあると言われ、12月眼科で緑内障診断・治療中、中~重度の緑内障と言われた。右目中心上方に暗点が生じ見えて邪魔になる。2020年の大型運転免許「立体視検査」で自信がない。使用中の眼鏡は全国展開する某眼鏡チェーン店で2年前運転免許用として製作。
使用中の眼鏡の視力状態と度数
右目 矯正視力 0.2 X S-8.25 ; C-0.50 AX117 過矯正
左目 矯正視力 1.2 X S-8.00 ; C-0.75 AX90 R=G
眼鏡店一般に時々見かける度数の誤った合わせ方
どんどん近視度数を強めるとよく見えると錯覚する眼鏡従事者やユーザー多い。度数を必要以上強めすぎると逆に視力は悪くなる。
過矯正と緑内障
因果関係はよく分からないが、時間軸で見た時、新調した運転免許用眼鏡の右目度数が過矯正で緑内障がその時期以降に発症しており妙に緑内障と符合する感じがする。同様の事例を過去にも見ているが、この事実は見逃せない。屈折度数を誤った過矯正にしたメガネを掛けると毛様体に緊張を生じさせることは眼鏡技術者達に広く知られている。
架橋性による毛様体に連なるシュレム管への影響が房水の排出を抑え眼圧を高めた可能性が有るのでは無いかと筆者は疑っている。眼鏡店は、無闇・安易に眼鏡の屈折度数を上げ過矯正になるまで近視度数を高めてはならないし、ユーザーも度数を高めればよく見えると考えるのは錯覚である。
近視で過矯正の場合、無意識に毛様体は緊張することによりチン小帯を緩めプラス側へ合わせよく見えるように調節が生じる。この緊張により毛様体に近接し連なる「シュレム管」を塞げば、房水の循環(排出)が悪くなり目の眼圧を上げ緑内障の原因になる可能性があると筆者は考える。
赤緑検査
使用中の眼鏡は、赤緑検査で右目球面度数が S-1.25程 過矯正でグリーン側が明瞭に見えていた。左目もやや強めの矯正になっており同様にグリーン側が明瞭に見えていた。右目度数は過矯正のため「眼精疲労」を起こし目が疲れやすい度数だった。度数を弱めると、ユーザーは「何か目が楽で、自然な感じでよく見える」という反応があった。
対策
緑内障による右目に見えている暗点移動については、眼鏡の使用環境を考え合わせケースバイケースで対応している。しかし、このケースでは近日受ける「大型運転免許視力検査」(立体視検査)との兼ね合いが有り総合的観点からと視力状態からみて段階を踏み、同時視で眼病から来る複視状態を改善すべきと考えた。
両眼視機能検査では、明らかに外斜位と上下斜位を検出した。目に生じている斜位は目の眼外筋が「疲れてくる」と像が左右上下に「分離」することにより(ユーザーの告知)暗点が見えたと推測される。プリズムによる「暗点移動」より、大型免許の立体視検査対応し立体視で「単一視」できるようプリズム矯正する方がユーザーメリットがあると考えた。したがって両眼視機能を高め立体視を重視し、単一視出来るためのプリズム矯正を行った。
片眼に異常があっても
片眼に緑内障による暗点などの異常が有っても、分離して見えるのであれば暗点は良好な視力の出る左目にカバーされた場合融像視により暗点が有っても気付かなくなる(加齢黄斑変性症など両眼で見た時病変に気が付かない場合が多く片眼づつで見て初めて異常に気がつく場合があるが、その逆を利用した手法)。
結果
「今までとは全く異なり眼鏡が楽でよく見え暗点に気づかなくなった」というユーザーの反応から、ユーザーが希望していたプリズムによる「暗点移動」は、運転免許・立体視検査との兼ね合いから控えた。しかし今後の経過を見てユーザーが必要であれば行う旨告知し一旦両眼視機能矯正に留めた。
当店検査
目的
遠用の眼鏡、大型運転免許、立体視検査用 単一視で暗点に気づかなくなるようにする
利目
左目
屈折検査と矯正視力(最高視力)
右目 裸眼視力 0.05以下 矯正視力 0.6P X S-7.00 ; C-0.75AX120 R>G
左目 裸眼視力 0.05以下 矯正視力 1.5P X S-7.50 ; C-1.00AX90 R>G
瞳孔間距離 67.0 mm
(略号説明 S=球面度数 C=乱視度数 AX=乱視軸 X:テストフレームを掛けた時 瞳孔間距離=右目と左目の中心間の距離 BI:基底内方 BD;基底下方 BU:基底上方 R>G:赤側がはっきり見え過矯正でない R=G 屈折矯正はほぼ完全 R<G 緑側がはっきりと見える過矯正)
上記の右目矯正視力は、晴眼者の1.2ではない。しかし屈折矯正検査で出た最高視力(疾患のある目)で右目は度数を弱める前の使用中眼鏡矯正視力は0.2であったが、度数を弱めた結果、良好な0.6pの矯正視力が出た。
(p:パーシャル ランドルト環を4分の3以上認識できないが一部認識できる視力を意味する、当店視力表で0.6程度認識できればおおよそ普通運転免許試験基準の0.7はクリヤーする場合が多い)
両眼視機能検査結果
外斜位と上下斜位を検出 矯正値
右 BI 3.00⊿ BD 0.50⊿
左 BI 3.00⊿ BU 0.50⊿
両眼視 視力 1.5P (自動車運転用)
レンズ発注詳細
レンズの総重量
10.9g
出来上がったレンズと取付対象フレーム概略
入荷したレンズとフレーム
加工前のレンズ概要
レンズ加工フレーム組付け概要写真
耳コバ側は薄く、外斜視すなわち基底内方のため鼻側に厚みが出る。度数が強度のため特殊面取り加工を施し厚み感を緩和、なおかつレンズ内でゴーストが生じるためレンズ外周は鏡面研磨加工により切削痕は白くならず透明に仕上げた。
耳掛け部分は耳と頭蓋骨に合わせ左右対称ではない。一般に人の頭部形状や耳の部分は機械的左右対称ということはほとんど無く、身体の変化に合わせ恣意的に曲げ合わせたものであり、異常ではない。
上部からのレンズ厚概要写真
左右の耳コバ側の厚み概要
眼鏡発送に添付したユーザーへの手紙
「この度は遠路ご来店誠にありがとうございました。
ご注文の眼鏡同封いたしますのでお受取りください。
ご使用中の眼鏡度数は
右 0.2 X S-8.25C-0.50AX117
左 1.2 X S-8.00C-0.75AX90 瞳孔間距離 68.0mmでした。
赤緑検査による検査で右レンズは過矯正、左レンズは赤=緑のほぼ一杯一杯の度数矯正でした。言い換えると度数が強すぎる状態で右目は常に毛様体に緊張を強いる状態です。
新規度数は
右 0.6p X S-7.00C-0.75A120
左 1.5p X S-7.50C-1.00A90 瞳孔間距離66.25mm
何れも目の毛様体に緊張を生じにくく楽に見える視力状態に改善しました。両眼視力 1.5p 言い換えると強すぎる度数を弱めました。
主訴の右目に見えていた暗点は、先天的か後天的かは不明ですがおそらく緑内障などで生じやすい「斜視」により像が分離し気になっていたものと判断し、分離して見えて気になる暗点をプリズム矯正で像が一つに見えるように矯正しました。
例えば健康な方でも目には網膜から眼球外部に視神経束が眼球外に出る視神経乳頭部があり、ここでは物が見えない部分言い換えるとマリオット盲点という部分が誰にも有ることが広く知られています。しかしこれに気づくことはありません。なぜなら両眼視した時左右の目で暗点を補って見えているからです。
したがってこの原理と同じように像が一つに見えるようにすれば、視神経束の一部が枯れている緑内障による暗点が有っても気が付きにくくなり不便を感じることがなくなる・・・この原理を今回応用しました。
おそらく今回の矯正で不自由なく運転等ができるようになり、合わせて目の疲れなど少なくなるだろうと考えています。目の疲れの原因に乱視が原因する場合があり精密乱視測定で過不足無い状態だと思います。これにより無駄な毛様体の緊張が減るとともにものが色濃くはっきり見えると思います。
眼鏡を掛けた直後の感想を伺っておりますが、「楽によく見える」ということは上記条件を適切に合わせた結果だと思っています。
但し眼鏡は使用してみないとわからない面があります。ご使用後何らかの異常があればご連絡ください。適宜対応を行います。
なお主訴の右目上方に生じていると言われた暗点がどうしても見えて邪魔になるのであれば最初に希望されていたプリズムによる暗点移動は何時でも可能です。しかし必要以上のプリズム矯正は無駄で逆に見え方に不都合を強いる側面を持ちます。
今の視力状態はさほど悪くなく最善の方法で対応できたと考えています。
斜視は、外斜視と上下斜視の複合斜視です。
今後の対応として、定期的点検を行っておりますので、時間を調整していただきご来店されることをおすすめします。なお現在の眼鏡はあくまでも運転用の眼鏡で日常生活上の視生活を補ったものでなく、遠くと近くなどを一つの眼鏡で見ることのできる眼鏡を作ることも可能です。但し一旦遠く用の眼鏡が適切に有っていることを確認した上でのことになりますのでそのためのステップ1の段階と考えていただければ分かりやすいと思います。
受領後、しばらくご使用いただきどのように見えているかお知らせください。
以上取り急ぎご連絡まで・・・
敬具」
1ヶ月後 定期点検
視力
両眼視力 1.5
あたかも暗点消失したように
両眼視でランドルト環は明瞭に一つ見える。従来の眼鏡で見えていた緑内障による暗点はあたかも消失したように見えている。言い換えれば気が付かなくなった(片眼で見れば右側の暗点は見え、暗点は消えたのではない)
写真の補足説明
上記写真は、ユーザーの背が高くカメラ位置が低かったためズレて見えているが、ユーザーが見る自覚検査で右左のリングの高さは左右同一、正面方向に1つテストシールのリングが見えている。このためレンズ光学中心位置は適切に合わされている。
ユーザー
「運転や日常生活で見えて困っていた暗点は気が付かなくなった。あたかも消失したように感じる。眼鏡は、楽によく見え快適そのもの、何も言うことがなく満足している。ありがたい。」
お喜びの電話
不安を感じていた大型運転免許・奥行知覚検査(三桿法)立体視を含む視力検査に弾む声で「合格した」と・・・お電話を頂いた。遠路頼りにしてご来店頂きお手伝いさせていただいた機会に感謝。
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