想像を絶する視力状態
来店当初、左のみ フレネル膜14.00⊿ BU(2重に見えて苦しい)
ユーザー
大阪府 在住 17歳(高校生) 男性
主訴
脳幹出血による強い複視(像が二重に見える)
来店後の経過
2015・03・15 初めてご来店時
手術時左目角膜に傷があり見え方が悪いため片目を瞑るため、両眼を開けられるよう、左側をオクルーダー(英語の遮蔽という意味、商品名でない)レンズで遮蔽し両目を開けれるように即日処置(当店は常備在庫)。角膜の炎症が眼帯を使用したり左目を常に閉じているためなかなか治癒が進まないので、遮蔽レンズで両眼を開けれるようにし乾燥状態で治癒が終わってからプリズム測定する予定で当日は終了。
片眼に雨が降ったような、霧がかかったような見え方をする不透明な性質のフレネル膜をユーザーが不愉快で依然像が二重に見えるという。
対策
両眼にプリズム組み込みレンズに切り替え準備
2016・05・12 測定
体の回復(自立歩行が出来るようになってきた)ととも角膜の炎症が治癒したというので見難くなってきたということで検査。少し現在のプリズム度数が強いため、再度弱める必要が生じたと考えられ、再作。
この間、定期的点検を行ってきた。
球面度数と乱視度数がシーソーゲームのように安定していない状態が続く。来店当初の左目:矯正視力0.4は良くなっても依然0.8止まりであった。
度数
右 矯正視力 1.2 X S-0.25C-1.75A10 Base Up 8.50⊿
左 矯正視力 0.8 X S-1.75C-1.25A35 Base Down 8.50⊿
瞳孔間距離 65mm
プリズムのタイプ
上下斜視
眼鏡製作の概略
加工前のレンズとフレーム
単に見ただけではなんの造作もされていないレンズのように見えるかもしれないが
実は厚さや重量において無造作に作られたレンズではなく、軽く薄くする工夫が施されている。
レンズの厚み差
写真を見た通り、右レンズは上端が薄く、左レンズは下端が薄くなっているのが分かると思う。
このようなレンズは、口頭で発注するなど杜撰な指示すると出来上がる眼鏡は使い勝手の悪い 分厚く・重い眼鏡が仕上がる。
レンズ製作指示
次の図を参考にすると理解がしやすいかと思う。
出来上がり方がAとBで異なり、普通はBで仕上がる。Bのように杜撰な発注の場合非常に見栄えが悪く、分厚く重たい眼鏡になってしまうこのためBの仕上がりを避けるため、
フレーム形状と視線経由点を網羅的に按分するため測定機フレームトレーサーによる形状と度数を絡み合わせ最小厚みと重量が可能なAの仕様の設計を行いオンラインでレンズ製造ラインに直接生産指示を行っている。
その記録図面は上記2枚のとおり。
この時レンズは使用に耐える最低限の薄さに仕上がる。しかしその一方薄くし過ぎるとレンズの反射防止膜などの真空蒸着釜の加熱により薄い部分において歪みが生じる場合があり、程度の厚みを保ちつつレンズ注文を行う。
写真の通り、極薄部分で歪みが生じているが、外周加工で削り飛ばされ無くなる不必要な部分である。必要部分でのレンズの曲率や度数においては何ら問題はない。
測定された視線経由点は左右オレンジ色リングの中心である。ここへ測定されたプリズムと球面や乱視の度数などが生じる地点をレンズ中心としてレンズ外周加工を行う。
新しい機器が必要
旧式のレンズメータでは、レンズの仮想中心点を得るのが難しく測定限界の高いレンズメーターが必要である。レンズ加工やレンズ測定の機器類は最新のものが必要となる。。
レンズの形状
この場合のプリズム矯正は、右ベースダウン 左ベースアップと呼ぶ。ベースすなわち基底をダウン(下げる)とアップがそれぞれ右左のレンズでなされたため、左右で上端と下端で反対側の厚みになる。
右側は 上が薄く 下が厚い
左側は 上が厚く 下が薄い
↓ レンズ外周加工を終えフレームに取り付けた概要写真
正面からの概要写真
正面から見てこのような厚み差は、比較的強い度数のわりに目立たなく仕上がっているの分かる。
当初のフレーム選択で当方の指導で天地幅の細いフレームを勧めた。薄く作られたレンズの相乗効果による仕上がりは下記写真のとおり。
レンズの効果はどうか
見かけ外観上のことに言及したが、どのような、見え方や効果なのか?
概略写真でおおよその効果について
上記眼鏡を見る限りなんの変哲もない普通のメガネに見えるが、レンズ越しに(少しわかりにくいが)強いプリズム効果により、映る像が上下している。
さらに分かりやすくするためメガネ背景に衝立のようなものを配置してみた。
水平線に注意
衝立のようなものを配置した写真
レンズを介して見ると右と左で水平な線は右側で上にあり、左側では下に位置している。少しの距離で相当な像の上下差が生じているのが見える。裏返しに考える時、この右と左で見た像が上下に位置した分だけ左右それぞれの目で像高さに置いて上下差が生じていると考えれば理解しやすい。その分だけレンズに位置ずれを打ち消すプリズム度数が負荷されている。
もう少しわかりやすくするために適宜補助線を補いどの程度の差で有るか分かるであろう。
この場合に加えられたプリズム度数は、左右合わせて17.00⊿プリズムディオプターという比較的強いプリズム度数である。
眼科のプリズム製作範囲に対する理解
旧来のレンズメーカーのレンズ製作範囲は、片眼5.00⊿プリズムディオプター、両眼で10.00プリズムディオプターとされこれに従って処方がされることが多い。しかし現実にはそれ以上の度数を必要とする場合が多い。眼科従事者がレンズスペックに対する理解がない場合不十分な矯正で二重に見える処方箋を持参されそのとおりに制作すると複視の解決になっいないケースが多い。
ケースバイケースで弾力的対応のため眼科に連絡し処方を替えていただく場合が少なくないのが実情である。プリズム組み込みレンズは、場合に拠るが片眼10.00⊿以上最高値で15.00⊿、両眼で20.00⊿~30.00⊿程度まで可能な場合がある。但しレンズ加工は難しい。
この様な状態だと
斜位が生じている場合、目の外側の左右それぞれ6本の筋肉(眼外筋)で見ようとする対象物に視線を無理に合わせようとした場合、眼痛や頭痛を引き起こしたりものを見たときボヤケて見えにくい状態になる。矯正せずそのまま放置すると片眼は見ることを脳で遮断する抑制という機能が働き、片目は見えると困るためあらぬ方向に目の向きを変えてしまい相手からの外観や人相に悪影響が出る。やがて片眼視になる。
片眼視の見え方
片眼視の見え方がどういうものか?これは誰にでも簡単に体験できる。片目を閉じたり手でお覆って見れば理解できる。距離感が失われ高度な融像視ができなくなる、言い換えるとものの奥行きなどが分からなくなる。片眼視は両眼視に比べ視力も悪くなる。このことから両眼視がいかに大切か知ることが出来る。
プリズムディオプターはどんな度数?
1プリズムディオプターは、1メータ先で1cmの差が生じる度数で、このケースの17.00⊿は言い換えると1メータ先で17cmの高さの差が生じる度数ということになる。更に遠くに目を振れば更に像は上下に離れて見える。
1メーター離れた地点で像は右左で見た高さの差が17cmの違いが生じており、これをレンズにより補正しているということになる。眼鏡を掛けないでいると像は一つに見えず生活上どちらの像が実際の位置か分からず生活上危険な状態が生じる。
突然生じたら
健常な者が何らかの理由で突然このような症状が生じた時、物が二重に見えたり、或いはぼやけて見えたりし、本人は耐えられないほど苦しい状態にある。
片眼視になれば両眼で見て視力の良い「融像視(ゆうぞうし)」が奪われ距離感がなくなり、見るものが立体的に見えない、言い換えると平面的に見る状態になる。
写真のプリズムレンズを見た真逆の状態が目に生じていると考えれば少しわかりやすいかもしれない。
結論
仮にあなたの家族の誰かが突然斜視の状態になった時、単純に「そうなんだと」と言うぐらいの理解が多い。しかし本人は想像を絶する視力状態にあると理解されたい。
本人の見え方は、外から見てわからず分かりにくい、本人も説明が難しく苦しい。身近な家族さえ本人の説明に理解ができない場合が少なくない。
逆の状態をテストフレームで家族の方にかけて体験してもらうことがあるが、誰でもビックリされる。見るのと聞くのとは全然異なる。試しに使っているプリズム矯正眼鏡を掛けてみれば容易にその深刻さを理解できる。
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